Googleスプレッドシートを使った業務効率化に取り組んでいると、必ずこんな声が聞こえてきます。

関数でできるんだから、わざわざコードを書く必要ある?
たしかに、VLOOKUP
やQUERY
、IF
、ARRAYFORMULA
など、スプレッドシートには高機能な関数が揃っていて、
少し工夫すれば驚くほど複雑な処理までこなせてしまいます。
でも、実際に業務改善に取り組む中で私は気づきました。
「できる」と「使い続けられる」は別問題だということに。
私自身、最初はGoogleフォームの通知をSlackに飛ばす処理からGASに触れ始めましたが、いまでは「処理が見えない・壊れやすい・引き継げない」関数の限界を感じて、多くの業務処理をGoogle Apps Scriptに置き換えるようになりました。
この記事では、そんな実体験をベースに、
- スプレッドシート関数とGoogle Apps Scriptの違い
- それぞれのメリット・デメリット
- どんな場面でどちらを使うべきか
を、表と具体例を交えてわかりやすく整理していきます。
スプレッドシート関数とGoogle Apps Scriptの基本的な違い
まずは、スプレッドシート関数とGoogle Apps Script(以下GAS)の性質そのものの違いから整理してみましょう。
この理解があるだけでも、「なぜGASにするべきか?」の判断がグッと明確になります。
🧩 関数:セル単位で“リアルタイム処理”
- スプレッドシート関数は、セルに直接入力して使う“見えるロジック”です。
- データが変更されると、即座に再計算されて最新の値を返してくれます。
- 誰でも使えて、簡単な集計や条件分岐にはとても便利です。
=IF(A2>100, “合格”, “不合格”)
🧠 Apps Script:コードとして“処理を設計”
- GASは、JavaScriptベースでスプレッドシートを操作する仕組みです。
- どのタイミングで、どんな範囲に対して、どんな処理をするのかを明示的にコントロールできます。
- イベントトリガー(送信時、時間、ボタンクリック)と連動することも可能です。
function sendSlackNotification() {
const sheet = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet().getSheetByName("回答");
const value = sheet.getRange("B2").getValue();
if (value > 100) {
// Slack通知を送る処理
}
}
👀 違いをざっくり比較すると…
観点 | 関数 | Apps Script |
---|---|---|
操作単位 | セル単位 | シート・データ全体 |
実行タイミング | 自動(リアルタイム) | 明示的 or トリガー連動 |
誰でも使えるか | ◎(非エンジニア向き) | △(最低限のコード知識が必要) |
表現力 | 限定的(複雑だと可読性低) | 高い(構造的に書ける) |
拡張性 | スプレッドシート内限定 | 外部APIや通知なども可能 |
つまり、関数は「今ここでパッと集計したい」という即時処理に強く、GASは「壊れない仕組みとして業務に組み込みたい」という長期運用に向いています。
関数とApps Scriptのメリット・デメリットを比較してみよう
ここでは、実際に業務でよく遭遇するシーンをベースに、関数とApps Script(GAS)のメリット・デメリットを一気に比較していきます。
🗂 メリット・デメリット早見表
観点 | 関数の特徴 | GASの特徴 |
---|---|---|
可読性 | × ネストや複雑な式になると読みづらい | ◎ 処理単位で整理されて読みやすい(コメントもOK) |
保守性 | × セルの追加・削除で壊れやすい | ◎ セル位置を明示するので構造変更に強い |
実行のタイミング | ◎ 入力に応じて即時反映 | ◯ トリガー or ボタンで実行(意図的な制御が可能) |
処理範囲の柔軟性 | △ シート内の範囲に限定 | ◎ 複数シート・ファイル・サービス連携が可能 |
ユーザーの習熟度 | ◎ 非エンジニアでも直感的に扱える | △ 基本的なコードリテラシーが必要 |
ログ・デバッグ | × 関数上では確認不可 | ◎ Logger.log() やTry/Catch で追跡しやすい |
再利用性 | × 同じ処理を複数箇所に適用しづらい | ◎ 関数化・テンプレート化が可能 |
属人化リスク | × 数式の意図が不明になりやすい | ◯ コメント・構造設計で共有しやすい |
バージョン管理 | × 変更履歴に依存 | ◯ スクリプトとして履歴や共有がしやすい(claspも可) |
外部連携 | × 基本的に不可能 | ◎ Slack・LINE・API連携など豊富 |
🔍 補足:判断基準は「規模」と「寿命」
- 関数でOKな例:表示の加工、単純な集計、1人で使うダッシュボード
- GASにすべき例:通知処理、複数シートまたぎ、社内ツールとして継続利用するもの
この表をベースにしておけば、「今回は関数で」「これはGASで」といった判断がしやすくなるはずです。
次章では、「じゃあ具体的に、どんなときに関数を使うべき?」という視点で整理していきます!
関数が適しているケースとは?
関数には関数なりの良さがあります。
特に、「ちょっとした集計や条件分岐を今すぐやりたい」といった場面では、Apps Scriptよりも関数の方がスピーディでスマートです。
✅ 関数が向いているケース例
- 単純な合計や平均の計算(
SUM
,AVERAGE
,COUNTIF
など) - 表示用の整形(
TEXT
,CONCATENATE
) - 条件による出し分け(
IF
,SWITCH
) - 入力データの簡易チェック
- 1シート完結で使い切るダッシュボード
👓 メリットが活きるポイント
- 処理結果がその場で確認できる
- 数式をそのまま見せて、誰でも編集可能
- ノーコードで済むので、誰でも作り始められる
⚠ 注意点
ただし、次のような状態になってきたら要注意:
IF
が3段以上ネストしている- 数式が長くて右にスクロールしないと見えない
- どこかのセルを変更したら、なぜか他の値が壊れた
こういった状況が出てきたら、GASでの置き換えを検討すべきタイミングです。
Apps Scriptが効果を発揮する場面
関数では対応しきれない複雑な業務処理において、Google Apps Script(GAS)は非常に強力な選択肢になります。
特に、メンテナンス性・拡張性・再利用性が求められる場合、関数だけでは限界があることを実感します。
✅ GASが向いているケース例
- 複数シートや複数ファイルをまたぐ処理
- Googleフォームの自動返信やSlack通知などの外部連携
- ユーザー操作に応じて動作するボタン機能
- 大量データを一括で処理する業務ロジック
- 属人化しない社内ツール化・引き継ぎを見据えた運用
🔧 GASの強みが活きるポイント
- 構造が見える:どんな処理が、どこで、どう行われているかが明確
- 壊れにくい:行列追加に強く、セル依存を極力排除できる
- コメント・ログが残せる:エラーの特定や引き継ぎが楽
- トリガーが使える:時間指定、送信時、自動実行など自由自在
- 通知・API連携もお手のもの:Slack・LINE・外部サービスと連動可能
💡 具体的な事例
- Googleフォーム送信時にSlack通知を飛ばす(記事はこちら)
- スプレッドシートで利益率をシミュレーションして、結果だけをきれいに表示
- LINE公式アカウントへの通知連携、メール自動返信 などなど
一度仕組み化してしまえば、GASは“壊れない業務ツール”として長く使えます。
最初はハードルが高く感じても、慣れればむしろこちらの方が安心・安全なのです。
「でも、GASってコード書くの大変そう…」と思った方へ。
今はCursorのようなAIエディタを使えば、GASを書くハードルは想像以上に下がります。
👉 Cursorの基本的な使い方とChatGPTとの違いはこちら
ハイブリッド運用のすすめ
「関数かGASか、どちらを使うべきか?」と悩む場面も多いですが、実際には両方をうまく組み合わせて使うのが現場では最適解です。
🔁 使い分けの例
処理内容 | ツール | 解説 |
---|---|---|
売上データの集計 | SUMIF などの関数 | 毎日変わる数値に対して即時に反映したい |
結果に応じてSlack通知 | GAS | 特定の条件を満たしたときだけ通知する処理はGAS向き |
入力フォームの回答管理 | Googleフォーム+スプレッドシート | 表示処理は関数、通知処理はGASで連携 |
過去データを一括更新 | GAS | 複数行への処理や繰り返し操作は関数だと困難 |
🤝 関数とGASは“対立”ではなく“協力”関係
- 関数でできることは関数で簡単にやる
- 壊れやすい・見えにくい処理はGASに置き換える
- CursorなどのAIツールで開発ハードルを下げる
このバランス感覚を持つことで、「作って終わり」じゃなく「使い続けられる業務ツール」に進化していきます。
GASと関数を適切に使い分けることで、業務効率化は加速します。
でも、GASを“安心して使えるツール”にするには、もうひとつ大切な視点があります。
👉 AI時代に求められるGASのテスト視点についてはこちらの記事で解説しています
まとめ:今、必要なのは“ツールの違いを知ること”
Googleスプレッドシートはとても強力な業務改善ツールです。
関数でもGASでも、使いこなせば業務の時短・精度向上に大きく貢献できます。
でも、「とりあえず関数で組んでみた」がメンテナンス不能・壊れる・誰も直せないという事態を招くことも事実です。
私自身、「GASって難しそう」と思っていた時期がありました。
でも、GoogleフォームからSlack通知を送るようになったのをきっかけに、今では複雑な処理はすべてGASで構築するようになりました。
GASは最初の一歩さえ踏み出せば、関数とは違う見える仕組みを提供してくれます。
そして、CursorのようなAIツールを活用すれば、その一歩もどんどん軽くなる。
今、関数で限界を感じているなら──それはGASへのステップアップのサインです。
この比較をきっかけに、あなたに合った最適な使い方を見つけていただけたら嬉しいです。
📚 関連記事:「関数じゃダメなんですか?──スプレッドシートでGASを書く理由」
ストーリー仕立てで、GAS導入のリアルなきっかけと気づきを綴った実体験記事です。
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